地図遊び


　新田次郎の「孤高の人」に出てくる登山家加藤文太郎は、会社が休みになると神戸周辺の山々を歩き回っていた。
　そのとき、自分の歩いた場所を白地図に赤鉛筆で落としていったが、これを「地図遊び」と呼んでいた。

　週末に釣りに行ったとき、翌週の月曜日には必ず職場の引き出しに入っている漁協の釣り場案内図を出し、そっと赤で川をなぞる。
　釣りを始めてから何年も、下流の同じ場所に通っていたので、あまり赤は伸びていかなかった。
　このところ上流に足を運んでいるせいか、みるみる赤が広がった。

　何となく、こみ上げてくる満足感。
　自分だけの密かな楽しみ。、、、のはずが、最近は向かい側に座っている上司が、「また行って来たの？」と声を掛けるのだ。
　うーん。バレバレやん。