劇的な瞬間


 夕方、堰堤のプールに糸を垂らしている。初夏の暑さは、流れ落ちる水が水面にぶつかってできる水混じりの風によって、心地よく弱められる。
 流れの勢いに負けないように大きめの錘を付けた仕掛けは、確実に底を探っているのだが、魚信は全くない。
 両側は切り立った崖だ。崖の上には、緑の人工林が続く。聞こえるのは、水の落ちる音だけ。

 魚がいなのか、それとも先行者がじっくり釣ってしまったのか、、、。
 辺りは薄暗くなってくる。そろそろ、止めようか。そんな時である。
 あの劇的な瞬間が訪れるのは。

 ガクッという魚信があり、流れの中から銀色のヤマメが出てきたかと思うと、次々に魚信が続く。
 ナ、ナ、何なんだ!今まで全く魚がいないのかと思われた水の中から、狂ったような魚信。
 だが、それもあっという間に終わる。ピタッと、止まってしまうのだ。

 サカナの習性は良く分からないが、何かをきっかけにいきなり食い始める瞬間があるのだ。
 時間が決まっているわけでもないようだし、本能の仕業なのだろうか。
 まっ、理由は分からなくても、そういう瞬間に遭遇できれば、それでいいのだけれど。