悔しい思い

 山百合橋の真下は、深い淵になっている。
 そっと覗き込むと、大物が泳いでいるのが見えた。
 夏の夕方だった。

 相手にはこちらが見えているのは承知しているが、根比べだ。
 夕方の腹が空く時に、おいしい川虫を何度も流すのだ。
 警戒はしていても、所詮は魚。
 何かの拍子に警戒を解いて食いつくのではないか。

 何度も何度も繰り返し流す。
 餌を追う気配はあるが、食いつくことはしない。
 辺りは暗くなってきた。
 目印はほとんど見えないので、手の感覚だけが頼りだ。
 あと1回、もう1回、これで最後、、。
 なかなか諦められない。
 もう止めよう、と決めた時。
 コツンという当たりが。
 すかさず合わせる。
 掛からなかった。
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 真っ暗な林道を一人歩く。
 町の暗さと違って、暗さの深さが違う。
 気がつくと、林の中に獣の気配がする。
 不気味だ。突然、恐怖がこみ上げてくる。
 以前人から聞いた熊に追いかけられた話、猟犬が野犬化して襲う話、林道でとぐろを巻いていたマムシ、、、。
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 家に帰ったら、暗くなっても帰ってこない私を、家族が心配していた。
 釣れないから粘っていたとは言えず、渋滞のせいにした。